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伝統

1980年。
駐在員として海外生活をすることになり真っ先に求めた自家用車は1977年型のBMW2002。


正に当時の私のドリームカーだった。

この車は2000CC水冷直列4気筒という意外なほどシンプルなエンジンだったが、その性能は素晴らしく前進4速しかないギアはローで時速60㌔まで伸ばせ、2ndでは80㌔、3rdで軽く100㌔に達しトップギアでは230㌔まで出した記憶がある。

そんな彼女から離れて40年経った今、再びBMWを手に入れた。
モデルは320i。

でも、この40年で彼女はすっかり変わってしまった。
(当たり前ですね~。40年も経つと娘でも婆ちゃんになってしまうのは。こっちも爺ちゃんになったし、、)

全てがコンピューターで制御され「走り」よりも「安全性」が重視され、とにかく良くしゃべる彼女となった。
ドアを開けるだけで何を感じたのかビピっと声を震わせる。
そして「録画体制に入りました。」で私を身構えさせ、
走行中高速道路で進入口にさしかかると「左からの合流車両があります」と注意を促し、
車線をウインカーなしに跨ごうとするとまたもやピ、ピ。

エンジンを切ると「監視体制に入ります。」で漸く終了する。
でも極めつけは朝に乗り込みエンジンをかけた時である。
「駐車監視中に衝撃を感知しました。」っていう彼女の朝のご挨拶がある。
これがどう聞いても「チューした最中に衝撃を感じました!」って聞こえてしまう。
「えっ!誰かにチューされたの?」
「うん、そうなの。誰かが私にね、イタズラしようとしたのよ。」
「そうかい。大丈夫だったかい?」なんて声をかけながら車体をチェックして
「うん、大丈夫みたいだけど気を付けるんだよ」なんて労わりながら発進させるのだが我ながらアホか?と思ってしまうほど大事にしている娘なのだ。
こんなに変わってしまった淑女だが誰がみても40年前のBMWと現代のそれを比べても一目でその娘か孫だ、というDNAを感じることが出来る。
その目元の憂い、気品ある鼻筋、そして流れるようなナイスバディーライン、吹き上がる発進力に踏み込みからの力強い加速。
40年前の淑女のパワーと気品は何も変わっていなかった。

それこそ伝統というべきものだろう。

伝統と保守は表裏一体である。
絶対に譲れない大事なものを守るために新しいものを取り入れながら進化していく。
それこそが保守であり、それを守る精神の継承こそが伝統である。
保守的とは決して消極的と同義語であってはならない。
私も常に新しいものに勇気を持って融合しながらも自分の大事なものを失わない保守的な強さをもちたいものだ、と願いつつ今日も彼女を駆って高速湾岸線をニタニタしながら疾駆している。
おしまい。

By Yuji