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私の選ぶベスト10 (鍋物語)

  • FUNAI'S EYE

和食は今やユネスコ無形文化遺産に登録されるほど国際的地位を得た。
そんな中でまず海外の和食ファンが連想するものといえば寿司、天ぷら・会席であり、
B級としてはラーメン・蕎麦・ヤキトリであろう。
でも、私の選ぶ一番身近な和食は鍋物である。
鍋物だけはレストランに行かなくても家庭で充分美味しく頂ける。
天ぷらや寿司それに蕎麦にせよ長年修行した職人の手にかかるものに家庭料理で太刀打ちできるものなどない。
なまじレシピを学び家庭で作るよりも素直にお気に入りのお店に足を運び、その職人の腕に感心しつつ先人の作り上げた伝統や食文化を惜しみなく感じるに限る。
ただ鍋物だけは一つの鍋を家族や友人で取り囲み、落ち込んでいる家族はいないか?
仲間で塞ぎこんでいる者はないか?
そんなことを気遣いながらつつきあう家庭料理の王様ではなかろうか?
そんな中でもこれだけは絶対にこの鍋屋に食べに行くに限る!
というべきベスト10を選んでみた。

 

第10位 とり美  (鶏鍋/鶏焼・大阪鶴橋)
とり美
大阪JR環状線の鶴橋駅では扉が開くと韓国下町の匂いが社内に飛び込んでくる。
改札口はKorean Townの入口に直結し迷路のような路地を抜けると平壌に辿り着く、と錯覚させるほど異郷である。そんなKorea Townの外れにこの店はある。
メニューは「鶏」のみ。
コースはまず七輪で焼く鶏肉。それから鶏鍋となり、〆にはそのスープで雑炊かラーメンのチョイスがあるが迷わずにラーメンを頼もう。
〆が終わる頃には体も心もホクホクである。
一歩外に出て風の冷たさを頬に感じながらピョンヤン街を抜け鶴橋駅まで歩くのも又心地よい。

 

第9位 たもん (てっちり・スッポン/大阪天五商店街)
多聞
天神橋商店街の北の端にひっそりと佇んでいる。
冬はてっちり・夏はスッポンの店。
カウンターのみの店は10人も入れば一杯である。
わざわざ関西や地方からのグルメが足を運ぶというような店ではなく古くから通う
地元の人に支えられている風情がある。
頑なに2代続いた味を守る店主。
お相伴を全く断らない女将。
こんな街に住む人達は幸せである。

 

第8位 うどんすき(美々卯・大阪淀屋橋)

「うどんすき」なるものが関西以外で食べられているのかどうか定かではない。
ただ大阪では食べ盛りの子供を持つ家庭では定番である。
うどんが主体となる鍋物なんて、どんなものか想像がつきにくいかもしれないが、うどんを主体とした寄せ鍋であり鍋の中には野菜、鶏、魚貝類、お揚げさん(大阪は何にでも‘さん’をつける)など色んな食材を文字通り抛り込む。
店構えはいたって高級割烹風だが中味は全く庶民的。
それが美々卯のうどんすきだ。

 

第7位 巴潟(ちゃんこ・両国)
巴潟
決して力士になった気分で雰囲気を味わうのでなく、力士のタニマチとして
この鍋を頂くと一層美味しくなる。
できれば気持ち良さそ~に肥えた人を隣に座らせておくともっと深く
タニマチ気分が味わえる。
店内に流れる相撲甚句などを聞きながら「ぬる燗」と共に頂ければ一層美味しくなる。

 

第6位 百番鯛よし (寄せ鍋・大阪飛田新地)

逆走して酔ってから飛田新地に迷い込めば間違いなくあなたは夢の中か明治時代にタイムスリップしたと思い込むだろう。
そして山王町の女郎街地区を抜けると「千と千尋」に出てくるようなお屋敷に突き当たる。
そこが百番鯛よしである。
正直に言うが料理に期待してはいけない。
ここでは女郎の流した汗と涙の染み付いた部屋から飛田新地界隈を見渡し
明治の文豪にでもなった気分で遠く想いを馳せればよい。

 

第5位 米久本店(牛鍋・浅草)

旧浅草六区映画街を抜け、ひさご通りに沿って歩けばチョット大阪の新今宮的ムードの中にひっそりと佇むこの名店を見つけることができる。
明治19年創業の牛鍋の老舗。
割下を少なめに煮るでもなし焼くでもなし。
鍋をつつき、ぬる燗を傾けながらふと目を上げると前に山口瞳が座っていて、
お酌をしてくれそうな気がする。
そんな粋な店なのだ。

 

第4位 駒方どぜう (どじょう鍋・浅草)
駒形どぜう
創業が享和元年(1801年)。
初代の越後屋助七から200年以上続く老舗中の老舗である。
「代官様、今宵コガネ色のお菓子など。。。」
「越後屋~ おぬしもワルよの~」
「いえいえ、代官様ほどでも。。」
隣の部屋から、こんな会話が聞こえてくるような店なのである。
ここのどせう鍋をつつきながら池波正太郎の「豆岩」を連想できれば、
あなたも相当な通である。

 

第3位 北むら (すき焼き・大阪心斎橋)
北むら
すき焼きにも江戸風と上方風がある。
江戸の割下をジャブジャブ入れて煮込むような、すき焼き(あれはスキ煮だ。)に対し
上方は文字通り肉を鍋で焼く。
そしてその肉汁で豆腐や糸こんにゃく・野菜を焼くように煮込む。
この名店は高級感が漂いちょっと入り辛いような威圧感がある。
でも仲居さんは気さくで、そんな中にも品があり海外の客と同伴していれば
ハンカチを使った折り紙などを土産にくれたりする。

 

第2位 たこ梅(道頓堀・大阪)
たこ梅
おでんは関西では関東煮(かんとだき、と発音する)と呼ばれたからには、きっと関東から上り着いたものだろう。
鍋物というには少し異なるかもしれない。
何故なら大勢で鍋をつつくというより一人でもカウンターで楽しめるからだ。
まずこの店ではタコの甘露煮とクジラのさえずり(舌)を外してはいけない。
酒は昔から真鍮の重いお猪口に並々と注がれる。
そしてカウンターに置かれたままのお猪口から酒をこぼさないように口からお迎えにいくその一口目が至福の瞬間でもある。
150年決して途切れさせることなく、注ぎ足しだけで続けてきた出汁は深みを感じさせる。
大阪の道頓堀になくてはならない名店でもある。

 

第1位 本せきぐち(すき焼き・しゃぶしゃぶ・大阪長堀)
せきぐち
同じ上方風すき焼きの名店でも上述の北むらから数百メートルほどしか離れていないこの名店は130年続く精肉店が経営するスキ焼の老舗でもある。
その昔、関西人の保養地であった浜寺より移築した古い町家風家屋には
いつも穏やかな空気が流れている。
そんな高級店だが仲居さんたちは陽気で庶民的だ。
でも決して下品ではなく関西のそこはかとないはんなりとした上品な空気が常に流れているのが何とも心地よい。
スキヤキとお酒でお腹をいっぱいにしたらゴロンと座敷で寝転がってみよう。
すると生家で寛いでいるような気分に浸れる。
心にしまい込んでいた難儀まで、そーっとほどいてくれそうな気分にさせてくれる。
これこそ自分だけの名店ではなかろうか。

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鍋物だけはどうしても一人で食べるわけにはいかない。
神経質な人であれば鍋の中で箸をつつき合う相手が誰か?によって鍋物を敬遠することだってあるから安易には誘えない。
又日頃、食べ慣れているせいもあり鍋奉行なる人物が自分の料理法と味付けで取り仕切れば少々興醒めとなることだってある。
そんな時は鍋屋に行くに限る。
調理から取り分けまで全て店の人がしてくれる。

相手の目を真正面に見据える直球だけの会話でなく、まるで鍋の中にいる
豆腐や白菜に語るように自分の胸の内を相手に伝えたっていいじゃないか。
鍋物は個々を繋ぐ、なくてはならぬ日本の食文化美といえよう。
さて今夜も相手をしてくれる友を探さなくては。

By Yuji
PS: ブログがだんだん仕事から離れていってしまう~