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私の選ぶベスト10(居酒屋編)
- FUNAI'S EYE
帰宅前に軽く一杯呑んでほのかに酔える店。
文字通り酒を主役にする店でなければならない。
かといって、肴がどうでも良いというわけではない。
肴もハッとするほどの美人でなければいけない。
仕事という戦いを終え、今日も情けなかった自分に愛想をつかす。
それでも一生懸命に耐えている自分を褒めて労わってあげたい気分にもなる。
『よく頑張ったな~、オレ。』
一杯の酒が腹におさめられる度に固く絡まった心の結び目が一つずつほぐれていく。
『。。。いや~部長の罵詈雑言によく耐えたよ。。。』
『オレみたいな部下がいるから社内の人間関係が上手く行くんだよな。』
『きっとそうだよ。。。』 と独り言(ご)ちる。
早く家路につかないと、と思いつつも体が椅子にくっついて離れない。
そんな居場所でなければならない。
ここに選んだ居酒屋は決して有名店というわけではない。
あくまで私の選ぶベスト10である。
自分の財布を開いて残っている数少ない紙幣を少しだけ酔った眼で取り出し
そしてわずかばかりのお釣りをコイン入れに仕舞う。
そんな眼で選んだベスト10なのである。
第10位 鍵屋 (東京・根岸)
安政年間に酒屋として創業したらしい。
築100年以上を経過する家屋は東京の片隅で忘れられた根岸という街の中でも
とっくに置き去りにされたような一角にある。
酒や肴をふんだんに取り揃えているわけではない。
ここでは酒を舐めつつ柱や壁に沁みこんだ先人の汗と涙の一滴ずつに思いをはせながら
静かに過ごすのが良い。
それで物足りなければブラブラ歩き上野藪蕎麦で「せいろう」と酒で〆ればよい。
第9位 (東京・アメ横)
ここは他の店とは全く違う雰囲気を持つ。
酒を味わい肴を楽しむなどとは無縁の場所である。
仕事が終わっても未だ有り余るエネルギーを爆発させたい時、
或いは早く今日の嫌なことを過去にしてしまいたい時。
そんな時はアメ横に限る。
特にどの店と決めることもないだろう。
フラフラ歩きながら、その日最も腰の落ち着きそうな処を選べばよい。
そしてホッピーであろうがチュウハイであろうが腹一杯詰め込み、
心を酔わす前に体ごと酔ってしまえばよい。
そんな時に見事なほど貴方を包み込んでくれる居場所なのだ。
第8位 植田 (大阪・泉佐野)
「子煩悩は身贔屓」と言えるように愛する地元だからという贔屓目もある。
居酒屋と呼ぶには酒の取り揃えが物足りない。
この店は女将の気配りと料理の味でランクインした。
居酒屋というよりは大衆割烹と紹介した方がよいかもしれない。
店に入ると、まずカウンターにあるいくつかの大皿の前で足が止まる。
鯵の南蛮漬け・鯛のカマ・鰤大根等どれをとっても見ただけで思わず笑顔になる。
そして〆に中華ソバが待っている。
ラーメンではない。
支那ソバと呼びたくなるような昔懐かしい中華ソバがいい。
季節によっては明石から回遊してきた鯛で鯛めしを〆にする贅沢にも恵まれる。
泉州人のもてなしの真髄を心得た女将がパートにサービスを任せきることはない。
客が店を出るまで、その眼は隅々にまで行き届いているのが何よりも心地よい。
第7位 魚菜 (札幌・すすきの)
北海道には数多くの素晴らしい食材がある。
しかしその食材を殺さず上手く料理するお店に不幸にして出会ったことがなかった。
ここは「すすきの」の中のビルの4Fという普段の感覚からすれば足を運ばないような
ロケーションだが、真だち(真鱈の白子)・帆立の梅煮・豆腐・ポテトサラダなど
素朴なものが実に美味い。
聞き慣れない酒も多くあるが、店主の知識は広く深く「外れ」はない。
そして何よりも決してその知識を振りかざしウンチクを垂れるということもなく、
むしろ寡黙というよりもわきまえたと言うべき店主夫妻の風情が実に心地良い。
札幌で唯一気持ちがほぐれる店である。
第6位 みますや (東京・神田)
店構え、店内、ロケーション
これ以上の演出はない。
文字通りの居酒屋である。
大袈裟だが壁一面と表現したくなるくらいメニューの品数は多い。
酒を呑ませるというよりもしっかり肴を食わせるという風情も良い。
今、人を斬ったばかりの浪人が隣で酒を呑んでいても決して違和感のない店なのだ。
思わず隣の客に
『ねぇ、中村(主水)のだんな~』
なんて話しかけそうになってしまう。
第5位 さわや (新潟・西蒲原郡吉田町巻)
アラ塩をまぶしたイカの口ばしを串刺しにし炭火で焼き上げた一品に
少し唐辛子をかけていただく「とんび」をこの店で初めて戴き、
思わず「飛んび」上がってしまった。
(スイマセン2流の洒落です。)
絶品である。その他結構肉物もイケル。
オヤジはシャイだ。
奥の厨房から客の様子を覗くようにしか姿を見せないが、その眼は行き届いている。
どうして新潟の料理は、こんなにも私の口に合うのだろうか?
第4位 明治屋 (大阪・阿倍野)
残念なことがある。
店が開発の名の下に移転してしまい、その風情ある店の周辺は一変してしまった。
横には日本一高いハルカスが聳え、
周りはどこにでもある普通の近代的なショッピングセンターと化した。
暑い夏の昼下がりに「きずし」をアテに冷酒をグッと一~二杯呑み
汗が引いたらサッと立ち去る。
あの浪花庶民の心意気のような風情はもう返ってこない。
再開発という名の下に街は全て同じような景色に変わっていく。
あの風情があれば間違いなく1位に輝いていた店である。
第3位 大和 (名古屋・堀田)
四季の味覚と酒処と銘打っている。
その名の通りで、小さな店には親父の闘志が漲っている。
強面の親父には不釣合いなほど笑顔よしの女房殿、
それに器量よしの娘。
余計なものも無ければ、足りないものも何もない。
名古屋で一番寛げる処だ。
第2位 もがみ (新潟・西蒲原郡・巻)
「演歌の花道」の演出家はきっとこの町の出身者だろう。
店先から乙な和装の女性がそっと指で涙を押さえながら現れそうな気がする。
土地柄、素材にも恵まれている。
でもその素材を殺さぬ料理が心をつかむ。
ノドグロ(勿論塩焼き以外に料理法はない)・イカの沖漬け・カニ・ばい貝・かわむき・
はつたけ(八茸)・からし巻。
こんなところに何気なくコロッと転がっているような幸せこそ本物だ。
第1位 山三 (大阪・なんば)
まず何よりも歌舞伎座脇の路地を入った処でひっそりと佇んでいる
ロケーションが良い。
ガラス戸の入り口から見える店内も昭和の大衆酒場を彷彿させるような
風情がある。
本当の酒好きだけが集まっている店といっても過言ではない。
客は寡黙で無表情だが、それでいて酒を心から楽しんでいる。
その佇まいがなんともいえず粋なのだ。
常に30~40種類の地酒がある。
またぴったり相性の良い肴も安価で旨い。
何よりも一口酒をふくんだ時に僅かに頬を緩ませる客の表情が心地よい。
可愛い看板娘・働き者の女将・頑固親父。
これぞ正しい日本の居酒屋の姿である。
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私は嫌煙家である。
喫煙者の傍に3分もいれば頭痛が始まり5分もすれば咳き込む。
10分も堪えようものなら機関銃を乱射しかねない。
でも喫煙者を少しだけ許せる処があるとすれば、それは居酒屋だ。
なけなしの小遣いから家路につく、ほんの一時の楽しみに旨い酒を一~二合呑み、
帰りがけに一服つけてよっこらしょっと腰を上げる。
そんな慎みのある一服なら周りに迷惑にならない程度に吸っても良い。
こんな居酒屋が全国各地に存在すると思うだけで心が和む。
日本に生まれ日本に住むという幸せを、なぜ人は忘れてしまっているのだろう。
by Yuji (全然仕事に関係のないブログになったなぁ~)