TOP » メディア » FUNAI'S EYE »
ホットのお湯
- FUNAI'S EYE
明治生まれの祖母は死ぬまでデパートとアパートを混同していた。
いつもある人の話題になると、あの人はデパートに住んでいると言い張って、いくら我々が教えてもアパートと言い直すことはなかった。
又食卓のポットをホットと呼びこれもいくら教えても温かいお湯が出るのだからホットだと言い張り、ついには根負けして我々がホットと呼ぶようになってしまった。
そんな祖母の話だからどこまでが事実かよくわからないのだが、彼女が若い頃にはデパートのエレベーターに乗るのにも履物をきちんと入り口の手前で脱いだ上品なご婦人がいたそうだ。
きっとエレベーターガールも驚いたことだろう。
そんな神経質なほどの日本人の潔癖性は今もあらゆる処で見受けられる。
先日琉球コラソンの応援に奈良に出向いた。
暖冬の狭間の寒い日曜日で山手の体育館にはお昼過ぎなのに粉雪が舞っていた。
会場には中高校生を中心に多くの観客が訪れ、狭い観客席は直ぐに満席となりアリーナと呼ばれるフロアーも一般に開放された。
それはよかったのだが土足厳禁と書かれたフロアーにはシーツが敷かれておりどう見てもフロアーを靴で痛めることも汚すこともないのに運動靴のまま入ろうとした高校生を職員が激しく叱責していた。
傍から見ても綺麗なスポーツシューズを履いた学生のどこがいけないのだろうと思い「シーツが敷いてあるのになぜ靴のままではいけないんですか?」と丁寧に聞いてみた。
すると私の息子より若そうな職員は「体育館内は土足禁止は当たり前の規則です!」と気色ばんで答えた。
このような議論は不毛で自分が余計に擦り減るだけなので私も靴を脱いで会場へ入場したのだが、なぜ体育館で(トイレではトイレ用のスリッパに履き替えないといけない)何度も何度も靴を脱いだり履いたりしないといけないのでしょうね?
館内は暖房設備もなく津々と冷え込む中、アリーナで裸足となり靴下を通して刺すような冷たさが足先から攻めてくるようで観戦どころではなかった。
この試合では入場料として大人¥2000高校生も¥1500払っている。それでその高校生は頭ごなしに怒鳴られてその大事な一日をどんな気持ちで観戦したのだろう?
この体育館のHPには、使用料金と施設案内の紹介だけで使用目的、理念など出てこない。
スポーツを楽しみ或いは観戦することによって健全なる人間の育成を図り、家族の絆を深め、より良い人間関係と生活の為に利用されることを目的とする。
私ならそんな理念を掲げ皆が満足し笑顔で帰ってくれるような体育館を造り運営したい。
アメリカでのスポーツ観戦のように家族や友人と居心地の良い館内で、高額だけど売店で買うファーストフードを楽しみ、思いっきりお気に入りのチームを応援し家族や友人との絆を深め「あー楽しかった、又来ようね?」「お父さん、ありがとう又連れてきてね?」なんていう文化はこの地には育たないのだろうか?
あの職員に些細なことで怒鳴られていた高校生は今後自分の家庭を持った時、自分の子供にはどんな教育をするんだろう?ホットのお湯の頑固さは明治生まれの祖母ちゃんの時代から今の若者に至るまでちっとも変っていなかった。
コラソンが大崎電機にボコボコに負けた腹いせもあって私はとっても不機嫌な思いで体育館を後にしたのだった。
おしまい。
By Yuji