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限りなくエッセイに近い私小説 - ①

  • FUNAI'S EYE

例年7月中旬には高校と大学のハンドボール部のOB戦と総会がありそれを中心に日本出張のスケジュールを立てるのだが今年は1年延期となったオリンピックのチケットを10枚確保していたので観戦も兼ねて7月初旬から8月中旬までの6週間ほどの日本滞在を楽しみにしていた。
ところがオリンピックが無観客となりコロナデルタ株も大爆発してしまい日本への出張どころではなくなってなにがなんだかグズグズハラハラしている間に前回の出張から3か月が経とうとしている。
これほど長い間出張しなかったのも珍しい。つまりこれほど長い間ロスでしっかりと生活していることも近年にはなかった。でもそのお陰でいたって規則正しい生活を送っている。

朝4時過ぎには起床しボンヤリしながらキッチンの片づけをしたりコーヒーや朝食の準備をして5時には走り出す。
この季節の5時頃と言えば未だ真っ暗でフクロウやRacoonとの朝のご挨拶を交わし時にはスカンクやコヨーテが進路を横切るように巣に戻っていくような時刻だ。
そんな中を小1時間ジョッギングし朝食を摂りシャワーを浴びて一日が始まる。

ロスの事務所に出ることもなく自宅に居てリモートで充分仕事がこなせるので昼食も夕食も自炊する毎日である。
だから夜9時には就寝できてしっかりと7時間程度は眠っていることになる。
因みに私の年齢では6時間睡眠を摂れば充分らしい、と話してみると実に健康的でしっかりと良い夢を見ながら熟睡しているように思われるかもしれないがそういうわけでもない。

つまりいくら健康的で規則正しい生活を送っていても私の周りではコロナを含めていくつかの気の滅入るような出来事が収束の気配もみせずに進行しておりそんなことが夢の中なのか覚醒しているのかボンヤリしながらも安眠を妨げるのである。

睡眠で悩んでいる人は多いだろう。
全く悩みもなく就寝と共に深い眠りに入り込みご機嫌で起床する人の方が珍しいかもしれない。

そんな中でつい最近私は真夜中に一度目が覚め、努力すればなんとか目覚める前の眠りを紡ぐ糸を手繰り寄せられそうな気もしたのでもう一度無理やり自分自身を眠りに落とし込んでやろうとしたのだが、なかなかその落とし穴が見つからず悶々としていた。

そんな時は酒の力でも借りてもう一度眠るという手もあるが私の場合夜中に起き出して酒など口にすれば却って目が覚めて本気で呑んでしまいかねない。
そして酒の酔いが回って気絶するように眠るのはきっと明け方だろうし目覚めた時のことを想像するとその後はずっと訳の分からない喪失感や罪悪感に包まれて一日を過ごすことになると思ったりすれば酒に頼ることもできない、というので睡眠薬代わりに眠くなるようなつまらない本を読むことにしてみた。

幸い「親指はなぜ太いのか?」(島泰三著)という本をその数日前に買っていたのでそれを読み始めたのだがこれが結構面白くて眠くなるどころか「ふふふ」なんて引き込まれてしまい類人猿の二足歩行に至る科学的な根拠に至っては大いに感心したり納得したりしているうちに夜が白々と明けてしまった。

勿論、その日の睡眠の継続は男らしくきっぱりと諦めて鉄の鎧でも付けたごとくずっしり重い体をベッドから引き摺り出しその朝も前日と同じ朝食とコーヒーの用意をしたのだが、それでもコロナが消えているわけでも気の滅入るような出来事が解決したわけでも睡眠不足が解消したわけでもない。

そんな理不尽で不公平で考えたくもないことをいくら心配してみたところでどっちみちしようがないと思い玄関から勢いよくランニングに飛び出したら雨が降っていた。

By Yuji