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限りなくエッセイに近い私小説 - ③

  • FUNAI'S EYE

予定通りに乗り込んだ羽田便は予定通り羽田空港に着いた。
検疫では予定通り支離滅裂な検査とウンザリするような手続きがありその後予定通りパスポートコントロール、税関と駆け抜け、予定通り出口から出るとそこには救出実行部隊が待っているはずだった。

「親分、長いお勤めご苦労様でございやした!」
「出迎えご苦労。長い間留守にして苦労かけたなぁ~」
「何をおっしゃいます親分のご苦労に比べればアッし達など、、、」
「ところで日本もコロナでエライことやけど仕事も家族も塩梅やっとるか?」
「へぇ、ありがとうございます。何とか、、しのいでおりやす。」
「そうか、ゆっくりあんたらの話も聞かしてもらうでぇ。」
と彼等が私の荷物を抱えてくれ私は彼等の後を悠然とついてホテルに向かう予定だった。
でもこの予定だけが外れた。

出口には誰もいない。いくら探しても彼等はいない。
仕方がないのでそのまま独りでまるで冥途に向かうおりん(楢山節考)のようにフラフラと空港ホテルへ向かった。

翌朝は尻尾を振りたくなるほど快晴だった。
空気はプラッシーを1本飲んだ後くらい清々しかった。

予定通り機嫌よく出発し海老名SAでコーヒーを飲んだ。
足柄SAで富士山を拝んだ。
浜名湖SAではランチに鰻弁当を張りこんだ。

伊豆半島が一望できる海岸線をかなり長い時間走ったがあれはどのあたりだったのだろう?
落ち着きを取り戻した太陽からは秋の日差しが差し込み海からは爽やかな乾いた風が吹いていた。
我々の旅は予定通り全て順調に進んだ。

そして大阪に入った。

東京湾を照らす朝陽を見ながら出発したこの旅は日の名残りを滲ませる夕陽を見ながら大阪船場で終わりを迎えた。

こんな旅をしているとコロナ禍の日常生活で情けなくなるほど惨めでつまらないと感じていた日常にも不思議と感謝と愛情が湧いてくる。

彼等のような若い社員と真剣に取り組める仕事をもっている幸せ。
心休めてくれる家族や友人、それに社員がいるしあわせ。
人に求められていると感じられる幸せ、

そんな普段は見落としがちだけれどなにげなくその辺にコロッと転がっているような小さな幸せこそ本物だとしみじみと味わうことができる。

ロスを出て38時間かけての救出劇は何ものにも代えがたいものを私に与えてくれた。

By Yuji