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限りなくエッセイに近い私小説 - ⑤

  • FUNAI'S EYE

                                            

孫娘が懐かない。

3人の子供と初孫が全員男だったので 身内で初めての女の子誕生ということに狂喜しそれこそ一度目薬代わりに目に入れてみようか、と思うくらい可愛がろうとしているのだが まるで私の素朴で純粋な愛が伝わらない。
私を見ると隠れるように遠ざかる。
彼女は決して照れているわけではなく私を避けているのだ。

自宅の廊下で偶然出くわせばまるで置物になったように固まってしまっている。
無理やり抱っこでもしようものなら5キロ先のPolice stationにまで届きそうな激しい声で泣き喚く。
女の子だからプレゼント攻勢でなんとかなるだろうと高を括っていたが プレゼントを持って帰っても欲しくて手を伸ばすのだが 彼女の掌はグーをしたままだ。
あの手この手で懐柔を試みるのだが一向に効き目がない。

携帯のFace timeで呼びかけてみてもニコリともしなければハローもバ~イも言わずまるで変質者を見る眼付でジーっと睨んでいる。
一生懸命幼児語で呼びかけている自分にふと気づくときはこちらの方がバカのように思えてきて自分が憐れで可哀そうになってくる。
一体私の何が気にいらないのだ!と声を荒げたくなるくらい私の忍耐力は臨界点に達している。

孫自慢の同級生たちは 携帯表紙に孫の写真などをそっと忍ばせるようにしながらも わざと見つかるように振舞いその後孫の写真集をバカみたいに見せびらかすのだが 私の携帯表紙は勿論孫ではなく長男一家が飼っているペットの犬である。

この犬の方がよほど可愛い。

しばらくぶりに会うだけでちぎれるほど尻尾を振り回し、私の顔や目、耳を全身で飛びかかるように舐めまわし油断していると耳や口の中、鼻の穴まで舌を差し入れてくる。
どんなに親しい人だって私の耳や鼻の穴まで舌を差し入れてくることはいないし お金をあげるからと言ってもそんなことをしてくれる人はまずない。
まぁ、こちらもお金をさしあげてまで鼻の穴まで舐めて欲しいとも思わない。

孫娘には私の耳や鼻を舐めろとは言わないがせめて目が合えば少しは微笑んだらどうなのだ。

そんな燻ぶった老人性癇癪を持ちながら先日歯医者さんに行った。

ロスに来て以来30年以上通っている日本人の歯科医で お互いに家族のことも良く知っている仲なのだが 彼と最近のお互いの様子など話している流れで孫の話になり この小生意気な孫娘のことを話してしまった。

私がもう臨界点を超えてしまっていて 今度機会があったら両親の見ていない隙に一度張り倒してやろうかな、と思っているなんて冗談を言っていたら

「一体舩井さんの何が問題なんだろうね?」って治療の手を止めて真剣に考え始めてくれた。
助手の女性も話に加わってきた。
コロナで患者も少なく暇なのか それとも話題として面白いのか、私に口を開けさせたままで2人が考えこんでしまっている。

人間性に威圧感はない。(貫禄もないけど⇒喋れないから私が心の中で回答している。)

いつもニコニコ朗らかだし(バカみたいで締まりがない)

声がバカでかく怖がらせるようなこともない(しょっちゅう裏返ってしまうが)

いろいろ彼等が私の性格を語りじろじろと容姿を上から下まで眺めているうちに その助手の女性が「アッ!わかった!」と声をあげた。
『アンガア?(何が?)』
「そのヒゲが怖いんじゃない?!」
『アン?(なに?)』
「一度試しに剃ってみたら?」
と言われたのだが40年以上生やしているこのヒゲを孫の機嫌を取るためになんで(一度試しに)剃らんとあかんねん!とやけっぱちになって診察台から立とうとして ウガイ用の水をズボンの上にひっくり返してしまい 何やらお濡らしをしたような姿のままで憮然として歯科医院を後にした。

しかしその後も未だ孫娘との攻防は終息の気配もなく和解の糸口は見出せまいままにいる。
現状ではヒゲを剃るという選択肢があるのかないのか、でももしこのヒゲを剃っても同じ結果なら誰がどう落とし前をつけてくれるというのだろう。

どうやら私の年越しの悩みはコロナでも最近とみに感じる体力、記憶力の減退でもなく孫娘の為にヒゲを剃るかどうかになってしまったようで今は愛用のGilletteの髭剃りをジッと睨んでいる。

By Yuji